札幌高等裁判所 昭和43年(う)5号 判決 1968年10月11日
主文
原判決を破棄する。
被告人佐々木清敏を懲役二年に、同田中正を懲役一年六月および罰金一〇万円に、同板倉良一を罰金一〇万円に各処する。
被告人佐々木清敏に対し、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
被告人田中正、同板倉良一に対し、右罰金を完納できないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人らを労役場に留置する。
理由
本件控訴趣意は、札幌高等検察庁検察官検事関野昭治提出の控訴趣意書記載のとおり(事実誤認、法令適用の誤り)であるから、これを引用する。
所論は、本件無尽はいわゆる組合類似型無尽ではなく、いわゆる個別契約型の非組合無尽(または営業無尽)であつて、被告人らの所為は相互銀行法第二条第一項第一号の「掛金の受入」業務に該当する、というのである。
そこで、まず、本件無尽講の実体を記録および証拠によつて検討すると、
一 被告人佐々木は、自己の経営する飲食店等の営業資金調達の目的で自己が講元となつて本件各無尽講を起講するに至つたこと、
二 講員選定は、被告人佐々木の指示により、その使用人である被告人板倉、同田中が、過去の各種無尽講台帳に登載されている者の中から、専らその資産状態、営業の状態、換言せば、その個人的素質如何ということとは無関係に、専らその支払能力の有無に重点をおいて検討選定したうえ予定者名簿を作成し、被告人佐々木がさらにこれに検討を加えて各無尽講の口数に応じた講員を厳選し、電話および直接訪問によつて各講員との間に個別的に無尽講契約を締結したこと、
三 右無尽講契約の内容はつぎのようなものであつたこと、すなわち、
(1) 第一回目の講員の掛金(講金)は無条件で講元が取得すること、
(2) 第一回目、講元は、講会場における講員の飲食代、土産品(引出物)代、席料等の諸費用を負担すること(その総額はおおむね一〇〇万円取り無尽では四万円、二〇〇万円取り無尽では八万円であつた)
(3) 第二回目以降、講元は講員から掛金を徴収し、その完了後講員に入札させていわゆる「セリ」を行い、最低額入札者を落札者として即時落札金を支払い、さらに、講金総額と右落札金との差額を非落札講員に対し「割戻金」として均等支払いすること(最終回を除く)
(4) 講元は、第二回目以降毎回、右割戻金のほか花くじ(出席奨励金)、番くじ(入札奨励金)代として合計約三万円を負担するほか、飲食代、菓子代、席料(第一回目も)を負担すること、
(5) 講元は、掛金徴収不能となつた際は、無条件でその講員の事後の掛金を負担すべき保証責任を負担すること、
が認められる。
以上認定の本件無尽講によれば、講元である被告人佐々木の純利益は、一〇〇万円取り無尽では約五〇万円、二〇〇万円取り無尽では約一二〇万円の高額となる仕組みになつており、講員の一方的損失によつて講元たる被告人のみが利益を受ける結果となる。もつとも、このことだけで直ちに本件の組合無尽たる性格を否定し得ないであろうが、さらにこの事実に、すでにみたような被告人佐々木のみの意思による起講、一方的な講員選定、従つて、また講員はある程度限定された地域内の者であるとはいえ、いずれも被告人佐々木の個人的な資力、信用を信頼して講加入を受諾し第一回講会日まで誰が講員であるかを知らない実情で、その間講員相互間の横の連関性が全く捨象されていることを考慮すると、同被告人の講元としての権利義務殊に落札者の掛金不払いに対する保証責任は単に講管理者(講財産の受諾者)としての権利義務に止まると理解するのは困難であろう。これを要するに、本件無尽講は、講元(主催者)たる被告人佐々木と各講員との個別的契約によるもので、同被告人が自己の責任において加入者を募集し、自己の権利として掛金を徴収し、講金を所有する反面、落札金、割戻金、諸雑費支払義務を負担し、講員相互間になんらの法律関係も存しないいわゆる個別契約型の非組合無尽に属するものと解され、被告人が営利の目的を以つて、業としてこれを営んだことも証拠上明らかであるから、かかる無尽講契約によつて掛金を受け入れた被告人佐々木、同板倉、同田中の本件各所為が相互銀行法第二条第一項第一号に該当することは明らかである。従つて、これを同法条に該当しないものとして無罪を言渡した原判決には判決に影響を及ぼす事実誤認があり到底破棄を免れない。論旨は理由がある。
よつて刑事訴訟法第三九七条、第三八二条を適用して原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書によりさらにつぎのとおり自判する。
当裁判所の認定した罪となる事実および証拠の標目は次のとおりである。
(罪となる事実)
第一 被告人佐々木清敏は、大蔵大臣の免許を受けないで共同積立会なる名称のもとに多数の無尽を起講し、第一回目の掛金全額を自己の営業資金等に充当しようと企て、営利の目的をもつて、別表一記載のとおり青木繁他一七〇名との間に各無尽ごとに会名、一定期間、掛金等を定め、同人等に毎月掛金させ、第二回目以降期間満了時まで毎月一回入札して「セリ」をなし、その落札者および期間満了時の未落札者に対し、一定の金員を給付することを約し、別表二記載のとおり、当該期間中である昭和三八年三月一三日より昭和四一年一二月一七日までの間、同記載の場所で同人等から掛金合計二〇五、九五〇、〇〇〇円を受け入れ、もつて相互銀行業務を営んだ、
第二 被告人板倉良一、同田中正の両名は、被告人佐々木清敏の右犯行に際し、その情を知りながら、掛金の受入れ等帳場の役割を果してその犯行を容易にさせ、もつてこれを幇助した
ものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
原審が適法に認定した事実にその挙示する法条を適用するほか、被告人佐々木清敏につき、「所得税法第二三八条第一項に、」の次に「相互銀行法違反の所為は同法第三条第一項、第二条第一項第一号、第二三条に」を加え、「懲役一年」とあるのを「懲役二年」と訂正し、被告人田中正につき、「第六六条第一項に」の次に「相互銀行法違反幇助の所為は同法第三条第一項、第二条第一項第一号、第二三条、刑法第六二条第一項に該当するので後者につき罰金刑を選択したうえ同法第六三条、第六七条、第六八条第四号により従犯の減軽を施し」を加え、「刑期」のつぎに「および罰金額」を加え、「懲役一年六月」以下を「および罰金一〇万円に処し、右罰金を完納できないときは刑法第一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。」と訂正し、新に、「被告人板倉良一の判示所為は相互銀行法第三条第一項、第二条第一項第一号、第二三条、刑法第六二条第一項に該当するので所定刑中罰金刑を選択し、同法第六三条、第六七条、第六八条第四号により従犯の減軽を施したうえその金額の範囲内で同被告人を罰金一〇万円に処し、右罰金を完納できないときは、刑法第一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。」を加える。
よつて、主文第二項以下のとおり判決する。